愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.416
下の子にきつく当たる
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「上の子が下の子をつねる」「おもちゃで叩く」「無視する」、外来で涙を浮かべながら相談されるお母さんが後を絶ちません。Tucker ら (2013) の調査では、下の子誕生後の上の子の約30〜40%に何らかの攻撃行動が出現すると報告されています [1]。
今回は、この攻撃行動の意味と対応についてお伝えします。
なぜ攻撃的になるのですか
上の子の攻撃は、単純な「悪意」ではありません。Volling (2012) のレビューでは、きょうだい攻撃の背景には主に3つの心理要因があるとされています [2]。
| 攻撃の背景 | 内容 |
|---|---|
| 嫉妬と喪失感 | 親の愛情を取られた感覚 |
| 自己肯定感の揺らぎ | 「自分はもう大事じゃない」 |
| 感情調整の未熟さ | 嫉妬を言葉にできない |
| 親の怒りの学習 | 親の叱り方を模倣 |
| 疲労・睡眠不足 | 下の子の夜泣きで上の子も疲弊 |
特に1〜4歳の子どもは、嫉妬を言語化する能力がまだ発達していません。結果として、気持ちが身体行動として出ます [2]。つまり攻撃は「SOS」の一種です。
「意地悪な子」ではなく「言語化できない気持ちが身体に出ている子」と見る視点が大事。
ポイント
- 攻撃の背景は嫉妬と喪失感 [2]
- 感情調整の未熟さが原因
- 「SOS」として捉える
まず何をすればいいですか
第一優先は「安全確保」です [3]。どんな理由があっても、下の子の身体を守ることが先です。
| 安全確保の原則 | 内容 |
|---|---|
| 二人きりにしない | 物理的に大人が監視できる環境 |
| 物理的距離 | 危険な瞬間は離す |
| 危険物の管理 | 硬いおもちゃ・尖ったものを遠ざける |
| 高い場所を避ける | 下の子をソファや抱っこひもに一人で置かない |
| 寝具を分ける | 添い寝事故を防ぐ |
安全を確保したうえで、次のステップに進みます。
| 対応の手順 | 内容 |
|---|---|
| 1. 行動を止める | 優しく手を止め、短く「ダメ」 |
| 2. 下の子をケア | 泣いていれば抱きしめる |
| 3. 上の子のケア | 「悲しかったね」と気持ちを言語化 |
| 4. 落ち着いたら話す | 「どうしたらよかったか」を一緒に考える |
| 5. やさしくできた時 | 大げさに褒める |
安全確保は何より優先。可能な限り、二人を同じ部屋で大人抜きにしない。
ポイント
- 安全確保が最優先 [3]
- 行動は止める、気持ちは受ける
- やさしくできた瞬間を褒める
叱るべきか、叱らないべきか
「ダメでしょ!」と叱るのは自然な反応ですが、研究では叱責中心の対応は攻撃行動を悪化させることが示されています [3]。Song ら (2023) の研究では、親が感情的に叱る頻度が高い家庭ほど、きょうだい攻撃が1年後に増加していました [4]。
| 効果的でない対応 | なぜ逆効果か |
|---|---|
| 大きな声で叱る | 親の感情爆発を学習 |
| 長時間のお説教 | 認知発達上、理解できない |
| 「お兄ちゃんなのに」 | 年齢プレッシャーで萎縮 |
| 体罰 | 暴力の正当化を学習 |
| 「もうお兄ちゃんなんだからあっちに行って」 | 排除感で嫉妬が強化 |
| 効果的な対応 | 内容 |
|---|---|
| 短く明確に | 「叩くのはダメ」だけ |
| 気持ちを受ける | 「くやしかったんだね」 |
| 代替行動を教える | 「嫌な時はママに言ってね」 |
| やさしさを見つける | 1日1回は肯定的声かけ |
| スキンシップ | ハグで愛着を補充 |
ポイント
- 叱責中心は逆効果 [4]
- 短く止め、気持ちを受ける
- 代替行動を教える
見ていない時が心配です
見ていない瞬間の攻撃が最も怖いです。対策は「環境設計」と「予防声かけ」です [3]。
| 環境設計 | 内容 |
|---|---|
| 視界を確保 | ベビーサークルを使う |
| 赤ちゃんを高く | 上の子の手が届かない位置(バウンサー等) |
| 別室禁止 | 上の子と赤ちゃんだけの部屋を作らない |
| ベビーモニター | 視界外のときの監視 |
| ドア開放 | 閉じた個室を避ける |
| 予防声かけ | 例 |
|---|---|
| 事前確認 | 「赤ちゃん、大丈夫?見ててね」 |
| 役割付与 | 「お手伝いしてくれてありがとう」 |
| やさしさの強化 | 「さっきなでてくれてたね」 |
| 感情の先取り | 「イライラしたら呼んでね」 |
ポイント
- 環境で事故を予防 [3]
- 視界外の時間を作らない
- 予防声かけで関係を作る
長引く攻撃は専門家へ
多くの攻撃行動は適切な対応で数か月以内に落ち着きます。ただし次のような場合は専門家への相談を検討してください [5]。
| 相談の目安 | 詳細 |
|---|---|
| 6か月以上続く | 通常の赤ちゃん返りの範囲を超える |
| 下の子に怪我 | 一度でも怪我が起きた |
| エスカレート | 強度や頻度が増している |
| 親の叱責も悪化 | 親自身のコントロールが難しい |
| 上の子の情緒問題 | 睡眠・食事・表情の変化 |
| 自傷 | 自分を叩く、爪を噛みちぎる |
相談先は小児科、発達相談、子育て支援センター、児童精神科などです。早めの相談ほど介入効果が高いです [5]。

おかもん先生より
外来で「つい上の子を叩いてしまった」と泣くお母さんがいました。僕は「お母さんも限界だったんですね」と先に受け止めました。攻撃する子の背後には、しばしば限界の親がいます。子どもへの介入と同時に、親自身のケアが必要です。親が守られてはじめて、子どもも守られます。
ポイント
- 6か月以上や怪我は専門家へ [5]
- 親自身のケアも並行して
- 早めの相談ほど効果大
今号のまとめ
- きょうだい攻撃は嫉妬と未熟な感情調整の表れ
- 安全確保が何より最優先
- 行動は止め、気持ちは受ける
- 叱責中心は逆効果、代替行動を教える
- 環境設計で危険な瞬間を予防
- 長引く場合は早めに専門家へ
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- Vol.408「赤ちゃん返り 上の子のサイン」
- Vol.409「兄弟げんか、どこまで放っておく?」
- Vol.410「上の子を優先する理由」
ご質問・ご感想
「攻撃が続いて困っている」「親も疲れた」などのご相談は、外来でお気軽に。一人で抱え込まないでください。
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