愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.74
「夜中に突然叫んで暴れる!」、夜驚症と夜泣きの違い
今号のポイント
- 2夜驚症は深いノンレム睡眠からの「不完全覚醒」。叫ぶ・泣く・暴れるが翌朝記憶がない
- 4夜泣きは浅い睡眠(レム睡眠)に関連し、なだめると落ち着く。夜驚症はなだめても反応しない
- 6多くの場合は成長とともに自然に消失する。安全確保が最優先で、無理に起こさないことが大切
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
今回のテーマは夜驚症(やきょうしょう)と夜泣きの違いです。
「夜中に突然叫び声を上げて、目を開いているのに全然こちらを見ていない」「抱っこしても暴れるだけで落ち着かない」「朝になったら本人はケロッとしている」、こんな経験はありませんか? それは夜泣きではなく、夜驚症(sleep terrors / night terrors)かもしれません。
名前は似ていますが、夜驚症と夜泣きは原因も対処法もまったく異なります。今号では、この2つの違いと正しい対処法をQ&A形式でお伝えします。
夜驚症とは何ですか
お母さんが描写されたのは、夜驚症(sleep terrors / night terrors)の典型的な症状です。夜驚症は、深いノンレム睡眠(徐波睡眠)からの不完全覚醒によって起こる現象です [1][2]
簡単に言うと、脳の一部は目覚めているけれど、意識は眠ったままという状態です。体は動いているのに意識が伴っていないため、叫んだり泣いたり暴れたりしますが、本人はその間のことを覚えていません [1]
夜驚症の典型的な特徴 [1][2][3]:
| 特徴 | 詳細 |
|---|---|
| 発生時間 | 入眠後1〜3時間(睡眠前半の深いノンレム睡眠期) |
| 症状 | 突然叫ぶ、泣く、暴れる。目を開いているが焦点が合わない |
| 自律神経症状 | 頻脈(心拍数増加)、発汗、瞳孔散大、顔面紅潮 |
| 意識状態 | 覚醒していない(話しかけても反応しない) |
| なだめの効果 | ほとんどない。むしろ触れると悪化することがある |
| 持続時間 | 通常5〜20分。その後突然おさまり再入眠する |
| 翌朝の記憶 | ない(完全な健忘) |
| 好発年齢 | 3〜8歳(ピークは5〜7歳)[2] |
| 有病率 | 小児の約1〜6.5% [2][3] |
お気持ちはよくわかります。夜驚症は見ている保護者のほうがずっと怖い思いをするのが特徴です。でも安心してください。夜驚症自体が脳にダメージを与えたり、お子さんの発達に影響したりすることはありません [1][2]。お子さん本人は何も覚えていませんし、つらい思いもしていません
ポイント
- 夜驚症は深いノンレム睡眠からの不完全覚醒 [1]
- 叫ぶ・泣く・暴れるが、意識は眠ったまま [1][2]
- 翌朝は完全に記憶がない [1]
- 小児の約1〜6.5%に見られ、3〜8歳に好発 [2][3]
- 夜驚症自体は脳にダメージを与えない [2]
夜驚症と夜泣きはどう違うのですか
はい、まったく別の現象です。名前は似ていますが、原因、起こり方、対処法のすべてが異なります。比較表で見てみましょう
夜驚症 vs 夜泣き 比較表:
夜驚症(sleep terrors)
- 好発年齢
- 3〜8歳 [2]
- 睡眠段階
- 深いノンレム睡眠(徐波睡眠) [1]
- 発生時間帯
- 睡眠前半(入眠後1〜3時間)
- 目の状態
- 開いているが焦点が合わない
- なだめの効果
- 効果なし。むしろ悪化することがある
- 意識
- なし(不完全覚醒)
- 翌朝の記憶
- なし
- 持続時間
- 5〜20分で突然おさまる
- 症状の激しさ
- 叫ぶ、暴れる、自律神経症状
- 原因
- 脳の成熟過程。深い睡眠からの覚醒の切り替えが未熟 [1]
夜泣き
- 好発年齢
- 生後6ヶ月〜1歳半 [4]
- 睡眠段階
- 浅い睡眠(レム睡眠)〜覚醒 [4]
- 発生時間帯
- 睡眠の後半〜明け方が多い。不定
- 目の状態
- 開いて保護者を認識する
- なだめの効果
- 効果あり。抱っこや授乳で落ち着く
- 意識
- あり(覚醒している)
- 翌朝の記憶
- 乳児のため評価困難だが、覚醒時は意識あり
- 持続時間
- 数分〜数十分(なだめれば短縮)
- 症状の激しさ
- 泣く、ぐずる
- 原因
- 多因子(睡眠サイクルの未熟さ、空腹、不快感等)[4]
そうなんです。なだめても反応しない(むしろ悪化する)というのが、夜驚症の最も特徴的なポイントです。夜泣きの場合は、抱っこしたり授乳したりすれば徐々に落ち着きますよね。夜驚症はそれが通用しません。保護者が介入すると、不完全覚醒の状態が長引いてしまうことがあるのです [1][5]
それはQ4で詳しくお話ししますね。まずは原因を理解しましょう
発作中は無理に起こさず、安全を確保して見守りましょう。翌朝は本人に記憶がないことがほとんどです。成長とともに自然に治まります。
ポイント
- 夜驚症と夜泣きはまったく別の現象 [1][4]
- 最大の違いはなだめの効果: 夜泣きは効く、夜驚症は効かない
- 夜驚症は深いノンレム睡眠から、夜泣きは浅い睡眠〜覚醒から起こる [1][4]
- 好発年齢も異なる: 夜驚症は3〜8歳、夜泣きは生後6ヶ月〜1歳半 [2][4]
夜驚症の原因は何ですか
多くの保護者がそう心配されるのですが、夜驚症は心理的トラウマの表れではありません [1][2]。主な原因は脳の睡眠覚醒メカニズムの未成熟です
夜驚症の原因とリスク因子 [1][2][3][5]:
説明
- 脳の成熟過程
- 深い睡眠から覚醒へのスムーズな移行が未熟
- 睡眠不足
- 睡眠負債があると深いノンレム睡眠が増加し、不完全覚醒のリスクが上がる
- 不規則な就寝時間
- 睡眠リズムの乱れが深い睡眠の構造を不安定にする
- 発熱
- 体温上昇が睡眠構造を変化させ、徐波睡眠からの覚醒を促す
- 遺伝的要因
- 家族歴が強い関連因子。親が夜驚症や夢遊病の既往がある場合、リスクが上昇
- 満膀胱
- 就寝前の水分過剰摂取 → 膀胱充満が覚醒を促す
- 閉塞性睡眠時無呼吸
- アデノイド肥大などによる睡眠中の呼吸障害が覚醒を誘発
- 一部の薬剤
- 鎮静薬など、睡眠構造に影響する薬剤
エビデンス
- 脳の成熟過程
- 成長とともに消失することが多い [1]
- 睡眠不足
- 最も重要な誘因のひとつ [5]
- 不規則な就寝時間
- 規則的な睡眠スケジュールで改善することが多い [5]
- 発熱
- 発熱時に一過性に悪化することがある [2]
- 遺伝的要因
- 一卵性双生児での一致率が高い [3][6]
- 満膀胱
- 就寝前のトイレ誘導で軽減する場合がある [5]
- 閉塞性睡眠時無呼吸
- 治療後に夜驚症が消失する例がある [7]
- 一部の薬剤
- まれ [2]
それは非常に重要な情報です。夜驚症と睡眠時遊行症(夢遊病)は同じ"ノンレム睡眠関連覚醒障害"の仲間で、家族内集積が知られています [3][6]。Nguyen et al.(2008)の研究では、親に睡眠時遊行症の既往がある場合、子どもの覚醒障害のリスクが約3倍になることが報告されています [6]
遺伝的リスクのまとめ [6]:
| 親の既往 | 子どもの覚醒障害リスク |
|---|---|
| 両親ともになし | 基準(約2〜3%) |
| 片方の親にあり | 約3倍に上昇 |
| 両方の親にあり | さらに上昇(約5〜7倍) |

おかもん先生より
夜泣きや睡眠の悩みは、保護者の疲労に直結します。「泣かせてはいけない」と思い詰めないでください。安全を確保したうえで、少し距離を置くことも立派な対処法です。
ポイント
- 夜驚症は心理的トラウマの表れではない。脳の成熟過程の問題 [1][2]
- 最も重要な誘因は睡眠不足と不規則な就寝時間 [5]
- 遺伝的要因が強い: 親に夜驚症・夢遊病の既往がある場合、リスク上昇 [3][6]
- 発熱時に一過性に悪化することがある [2]
- 閉塞性睡眠時無呼吸が隠れていることもある [7]
夜驚症が起きた時、どうすればいいですか
まさにそこがポイントです。夜驚症の対処で最も大切なのは、無理に起こさないことです [1][5]。揺すったり大声で呼んだりすると、不完全覚醒の状態が混乱してかえって長引きます
発作時の対処法 [1][2][5]:
| やるべきこと | やってはいけないこと |
|---|---|
| 安全確保(周囲の危険物を除去、ベッドからの転落防止) | 無理に起こそうとする |
| 静かに見守る(そばにいるが、最小限の介入) | 大声で呼ぶ、揺する |
| 時間を計る(5〜20分で自然におさまる) | 抱きしめて押さえつける |
| おさまったら静かに寝かせ直す | 翌朝「昨夜は大変だったね」と本人に言う |
| 発作の記録をつける(時間、持続、きっかけ) | 叱る、怒る |
お気持ちはよくわかります。でも、お子さんは苦しんでいるわけではないんです。不完全覚醒の状態なので、翌朝は何も覚えていません。"見守る"こと自体が最善の対処法なのです [1]
予防的な対策(日常の取り組み)[5][8]:
具体的な方法
- 十分な睡眠時間の確保
- 年齢別の推奨睡眠時間を守る(下表参照)
- 規則的な就寝時間
- 毎日同じ時間に寝かせる(週末も)
- 就寝前のルーティン
- お風呂→絵本→消灯を毎日同じ順序で
- 就寝前のトイレ
- 寝る前に必ずトイレに行く
- カフェイン回避
- チョコレート、コーラなどを夕方以降に避ける
- 発熱時の注意
- 発熱時は夜驚症が出やすいことを知っておく
理由
- 十分な睡眠時間の確保
- 睡眠不足が最大の誘因 [5]
- 規則的な就寝時間
- 睡眠リズムの安定化 [5]
- 就寝前のルーティン
- リラックスと入眠の合図
- 就寝前のトイレ
- 膀胱充満の予防 [5]
- カフェイン回避
- 睡眠の質の確保
- 発熱時の注意
- 事前の心構え [2]
年齢別の推奨睡眠時間(米国睡眠医学会 AASM)[9]:
| 年齢 | 推奨睡眠時間(昼寝含む) |
|---|---|
| 1〜2歳 | 11〜14時間 |
| 3〜5歳 | 10〜13時間 |
| 6〜12歳 | 9〜12時間 |
| 13〜18歳 | 8〜10時間 |
予定覚醒法(scheduled awakenings):
頻回に夜驚症が起こる場合、予定覚醒法という方法が報告されています [5][8]。
| 手順 | 詳細 |
|---|---|
| ① 記録をつける | 1〜2週間、夜驚症が起きる時間を記録する |
| ② パターンを把握 | 毎晩ほぼ同じ時間に起きるケースが多い |
| ③ 事前に起こす | 通常の発作時間の15〜30分前に、軽く声をかけて覚醒させる |
| ④ 再入眠させる | 完全に目覚めたことを確認してから、再び寝かせる |
| ⑤ 続ける | 2〜4週間続けると、多くの場合改善が見られる [8] |
この方法は深い睡眠のサイクルを「リセット」することで不完全覚醒を防ぐと考えられています [8]。ただし、すべてのお子さんに効果があるわけではないため、改善しない場合は小児科にご相談ください。
症状が長引く、悪化している、いつもと様子が違うときは、早めに小児科医に相談してください。
ポイント
- 発作時は安全確保 + 静かに見守るが最善 [1][5]
- 無理に起こさない。かえって長引く [1]
- 予防は十分な睡眠 + 規則的な就寝時間が基本 [5]
- 頻回の場合は予定覚醒法が有効なことがある [5][8]
- お子さん本人は覚えていないので、翌朝は触れなくてOK
受診したほうがいいのはどんな時ですか
はい。多くの夜驚症は成長とともに自然に消失しますが、以下の場合は小児科や睡眠の専門外来への受診をお勧めします [1][2][7]
受診すべきケース:
| 受診の目安 | 理由 |
|---|---|
| 毎晩または週に複数回起こる | 睡眠の質への影響が大きい [1] |
| 30分以上持続する | 通常の夜驚症より長い場合、他の原因の除外が必要 [2] |
| けがのリスクがある(暴れて落下、物にぶつかる) | 安全対策の見直し、薬物療法の検討が必要 [1] |
| 日中の眠気が目立つ | 睡眠の質が著しく低下している可能性 [2] |
| いびきや無呼吸がある | 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の評価が必要 [7] |
| 思春期以降も持続する | 成人の覚醒障害は稀であり、精査が必要 [2] |
| 睡眠中に歩き回る(睡眠時遊行症を伴う) | 安全上のリスクが高まる [3] |
| 保護者の精神的負担が大きい | 保護者自身のケアも大切 |
特に注意していただきたいのが、いびきや睡眠中の無呼吸です。Guilleminaultらの研究では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の治療(アデノイド切除など)後に夜驚症が消失したという報告があります [7]。夜驚症が頻回な場合、睡眠中の呼吸にも注目してみてください
もうひとつ大切なことがあります。睡眠時遊行症(夢遊病)との合併です。夜驚症と睡眠時遊行症はどちらもノンレム睡眠関連の覚醒障害であり、合併することがあります [3]。夜驚症の発作中に立ち上がって歩き回る場合は、転倒や階段からの転落などけがのリスクが格段に上がるため、必ず受診してください
夜驚症の自然経過 [1][2]:
| 年齢 | 経過 |
|---|---|
| 3〜5歳 | 発症が多い時期 |
| 5〜7歳 | 頻度のピーク |
| 8〜10歳 | 多くの場合自然に消失 |
| 思春期以降 | ほとんど消失。持続する場合は精査を [2] |
ポイント
- 多くの夜驚症は8〜10歳までに自然消失 [1][2]
- 受診すべき主なケース: 頻回、30分超、けがリスク、日中の眠気、いびき [1][2][7]
- 睡眠時無呼吸が隠れていないか要チェック [7]
- 睡眠時遊行症の合併はけがのリスク上昇のため要受診 [3]
- 保護者の精神的負担が大きい場合も、遠慮なく相談を
今号のまとめ
- 夜驚症は深いノンレム睡眠からの不完全覚醒。叫ぶ・泣く・暴れるが翌朝記憶なし
- 夜泣きとはまったく別の現象。好発年齢、睡眠段階、なだめの効果が異なる
- 原因は脳の成熟過程であり、心理的トラウマではない。遺伝的要因が強い
- 対処の基本は「安全確保+見守る+無理に起こさない」
- 予防は「十分な睡眠+規則的な就寝時間」が最重要
- 8〜10歳までにほとんど自然消失する
- 頻回、けがリスク、いびきがある場合は受診を
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